親が大切に守ってきた実家だからこそ、受け継ぐときも家族が納得できる形にしたいものです。
しかし、実家は預貯金のように簡単に分けられません。「誰が住むのか」「売却して代金を分けるのか」「実家を取得する人が、ほかの相続人に代償金を支払えるのか」といった点で、家族の意見が分かれることがあります。
【この記事の結論】
実家の相続トラブルに備えるには、①財産と不動産の状況を正確に把握する、②実家の承継方法と遺留分を確認する、③法的に有効な遺言書に分け方の理由を添える、という3つの準備が重要です。
ただし、遺言書を作成すれば、相続トラブルを必ず防げるわけではありません。遺言書の内容、家族への説明、相続開始後の手続きまで一体として考える必要があります。
この記事の要点
・実家は、そのままでは複数の相続人に均等に分けることが難しい財産です。
・遺言書を作成する前に、登記名義、土地・建物の範囲、評価額、住宅ローンなどを確認します。
・特定の相続人に実家を相続させる場合は、ほかの相続人の遺留分にも配慮が必要です。
・財産の分け方だけでなく、「なぜその内容にしたのか」を付言事項で伝える方法があります。
・相続人同士に対立がある場合、交渉や紛争解決は弁護士への相談が必要です。
実家の相続は財産額にかかわらず問題になる
「うちには多額の財産がないから、相続で問題になることはない」とは限りません。
最高裁判所の令和7年司法統計年報によると、令和7年中に家庭裁判所で認容または調停成立となった遺産分割事件8,399件のうち、遺産額1,000万円以下が2,967件、1,000万円を超えて5,000万円以下が3,541件でした。
合計すると6,508件で、全体の約77.5%を占めます。
これは、家庭裁判所で認容または調停成立となった遺産分割事件についての統計であり、すべての相続を対象にした割合ではありません。それでも、遺産額が5,000万円以下の家庭でも、遺産分割が裁判所の手続きに至るケースがあることを示しています。
実家の相続が難しくなる理由
実家の相続が難しくなる主な理由は、不動産をそのまま均等に分けることが難しいからです。
預貯金であれば、一定の割合に分けることができます。一方、土地や建物は、誰か一人が取得するのか、売却するのか、複数人で共有するのかを決めなければなりません。
主な分け方には、次のような方法があります。
・現物分割
特定の相続人が実家をそのまま取得する方法です。
・代償分割
一人が実家を取得し、ほかの相続人に代償金を支払う方法です。
・換価分割
実家を売却し、売却代金を相続人間で分ける方法です。
・共有分割
複数の相続人が実家を共有する方法です。
共有は一見すると公平に見えますが、将来、売却や大規模な変更をする際に共有者間の調整が必要になります。また、共有者の一人が亡くなると、その持分がさらに相続され、関係者が増えることがあります。
共有を選ぶ場合は、将来の管理、使用、費用負担、売却まで考えて判断する必要があります。
1.財産と不動産の状況を正確に把握する
実家の相続に備える最初の準備は、財産の全体像を明らかにすることです。
土地・建物だけでなく、預貯金、有価証券、生命保険、借入金なども含めて一覧にします。
実家については、少なくとも次の事項を確認します。
・土地と建物の登記名義
・土地の所在、地番、地目、面積
・建物の所在、家屋番号、種類、床面積
・固定資産税評価額
・住宅ローンや抵当権の有無
・私道持分や未登記建物の有無
・実際に住んでいる人
・今後も住み続けたい人がいるか
固定資産税を納めていても、登記名義が以前の所有者のままになっている場合があります。登記事項証明書や固定資産税納税通知書などを確認し、現在の権利関係を把握することが重要です。
令和8年2月2日からは、登記記録上、特定の人が所有者として記録されている不動産を一覧的に確認できる「所有不動産記録証明制度」も始まっています。
ただし、証明書で確認できるのは登記記録に基づく不動産です。未登記建物などが含まれていない可能性があるため、手元の資料や現地の状況と照合する必要があります。
2.実家の承継方法と遺留分を確認する
次に、「誰に実家を引き継いでもらいたいか」を具体的に検討します。
例えば、長男が実家に住み続ける予定であれば、長男に実家を相続させ、ほかの相続人には預貯金を相続させる方法があります。
しかし、実家の価値が財産全体の大部分を占める場合、預貯金だけではほかの相続人との調整が難しくなります。その場合は、実家を取得する人が代償金を支払えるか、生命保険などを活用できるかも検討します。
遺言書を作成するときは、遺留分にも注意が必要です。
遺留分とは、一定の相続人に法律上保障された、最低限の遺産取得割合です。兄弟姉妹以外の法定相続人には、民法上、遺留分が認められる場合があります。
例えば、「長男にすべての財産を相続させる」という遺言書があっても、ほかの相続人から遺留分侵害額請求を受けることがあります。
遺留分を侵害する内容の遺言書が、直ちに無効になるわけではありません。しかし、相続開始後に金銭の支払いをめぐる問題が生じる可能性があります。
実家の承継方法を決める際は、次の点を確認します。
・実家を取得する人は誰か
・その人は実際に住み続けるのか
・固定資産税や修繕費を負担できるか
・ほかの相続人に渡せる預貯金があるか
・代償金を支払う必要があるか
・遺留分を侵害する可能性がないか
・売却する場合、いつ、誰が手続きを行うか
法律上の取り分だけでなく、実家を取得した後の維持費や管理負担まで考えることが重要です。
3.法的に有効な遺言書に分け方の理由を添える
財産の承継方法が決まったら、その内容を法律で定められた方式の遺言書として残します。
遺言書には、主に自筆証書遺言と公正証書遺言があります。
自筆証書遺言は、自分で作成できる遺言書です。原則として、遺言者本人が全文、作成日、氏名を自書し、押印する必要があります。財産目録については、自書によらない方法も認められていますが、各ページへの署名・押印など所定の要件があります。
公正証書遺言は、遺言者の意思に基づいて公証人が作成する遺言書です。原則として証人2人の立会いが必要ですが、原本が公証役場に保管され、相続開始後の家庭裁判所による検認も必要ありません。
実家のように財産価値が高く、分け方が難しい財産がある場合は、遺言書の方式だけでなく、財産の特定方法や遺言執行者の指定についても検討する必要があります。
付言事項で家族へ理由を伝える
遺言書には、財産の分け方とは別に、家族への感謝や分け方の理由を「付言事項」として記載できます。
例えば、次のような内容です。
「長男に自宅を相続させるのは、長年同居し、建物の維持管理を担ってくれたためです。ほかの子どもたちにも感謝しており、預貯金は記載した割合で受け取ってもらいたいと考えています。」
付言事項そのものに、相続人へ法的な義務を負わせる効力があるとは限りません。それでも、なぜその分け方にしたのかを本人の言葉で伝えることは、家族が遺言内容を理解するための材料になります。
ただし、「親の本音を知れば必ず納得する」とは限りません。家族関係や財産状況によって受け止め方は異なります。付言事項は、法的な準備を補う説明として活用することが適切です。
実家の相続では相続登記にも注意する
令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されています。
相続によって不動産を取得した人は、原則として、その取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。遺産分割協議によって不動産を取得した場合は、遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容を反映した登記を申請します。
正当な理由なく申請を怠った場合は、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
令和6年4月1日より前に発生した相続で、相続登記が済んでいない不動産も義務化の対象です。この場合、原則として令和9年3月31日までに対応する必要があります。
不動産の相続登記申請を代理できるのは、司法書士または弁護士です。行政書士が相続登記を代理することはできません。
行政書士に相談できること
たてかわ行政書士事務所では、相続人間に争いがない段階で、次のような支援を行います。
・相続人と財産関係の整理
・自筆証書遺言の原案作成支援
・公正証書遺言の原案作成支援
・公証役場へ提出する資料の整理
・戸籍など必要書類の収集支援
・相続人全員の合意成立後の遺産分割協議書作成
・弁護士、司法書士、税理士との連携が必要な事項の整理
次のような場合は、弁護士への相談が必要です。
・相続人同士で意見が対立している
・実家の売却や取得をめぐって交渉が必要である
・遺言書の有効性が争われている
・財産の使い込みが疑われている
・遺留分侵害額請求を検討している
行政書士は、相続人の代理人として交渉したり、紛争を解決したりすることはできません。
また、不動産の相続登記は司法書士、相続税の申告や具体的な税額計算は税理士の専門領域です。
よくある質問
Q.実家を長男だけに相続させる遺言書は作成できますか?
作成することはできます。ただし、ほかの相続人の遺留分を侵害する場合、相続開始後に遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。実家以外の財産や代償金の支払い能力も含めて検討する必要があります。
Q.兄弟全員で実家を共有すれば公平ではありませんか?
持分としては公平に分けられますが、将来の管理、修繕、賃貸、売却について共有者間の調整が必要になります。次の相続によって共有者が増える可能性もあるため、将来の利用方法まで確認して判断してください。
Q.遺言書があれば遺産分割協議は不要ですか?
有効な遺言書に財産の承継方法が明確に記載されていれば、原則として遺言内容に従って手続きを進めます。ただし、遺言書に記載されていない財産がある場合などは、遺産分割協議が必要になることがあります。
Q.親が元気なうちに実家の相続について話し合ってもよいですか?
本人の意思を尊重しながら、実家に住み続けたい人がいるか、維持費を誰が負担するかなどを確認することは大切です。ただし、遺言内容を最終的に決めるのは遺言者本人です。
Q.相続人同士でもめている場合も行政書士に相談できますか?
制度や相談先についての一般的な案内はできますが、相続人間の交渉、代理、紛争解決は行政書士の業務ではありません。具体的な対立がある場合は、弁護士へご相談ください。
相模原市で実家の相続・遺言書作成をお考えの方へ
たてかわ行政書士事務所では、相模原市および神奈川県央地域を中心に、遺言書原案の作成、公正証書遺言の準備、相続人・財産関係の整理を支援しています。
代表の行政書士・建川一茂は、元神奈川県警視として培った事実確認と記録整理の経験を生かし、財産の記載漏れや関係者間の認識の食い違いを防ぐ視点から、書類作成を支援します。
「実家を誰に引き継いでもらうか決められない」「ほかの相続人の取り分も考えたい」「自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらが適しているか分からない」という段階でもご相談いただけます。
ご相談やお問い合わせだけで、契約を強制することはありません。行政書士の業務範囲外となる場合は、弁護士、司法書士、税理士など適切な専門家への相談をご案内します。
相模原市および近隣地域で、実家の相続や遺言書の作成をお考えの方は、たてかわ行政書士事務所へお問い合わせください。
参考となる公的情報
令和7年司法統計年報・家事編|最高裁判所
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/shihotokei_nenpo/index.html
民法|e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
相続登記の義務化・所有不動産記録証明制度|政府広報オンライン
https://www.gov-online.go.jp/article/202512/entry-10431.html
遺言|日本公証人連合会
https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow02